No.273 2月号編集後記

 今回は関係者にお詫びするとともに、私も非常に不愉快に思っていることについて経過を説明させていただきます。

 ことは東京ヘレン・ケラー協会発行の『点字ジャーナル』2010年11月号の記事です。
 「言霊文字霊」の欄で水谷昌史氏が、当センター発行の『点字表記辞典』を取り上げ、「この辞典が点字の質を低下させている」などという誹謗と中傷に満ちた記事が出ました。

 氏の論旨については、日本点字委員会副会長の田中徹二氏が同誌12月号で「水谷さんに物申す」として、「点訳上の悪例をいくつか挙げ、こうした分かち書きをする原因は、表記辞典の存在にあると決めつけ、その中には辞典にない例まである。それなのにあたかも辞典を見て点訳したような指摘は悪意がなければできない。『とんでもない暴言』や『あまり血迷った感情的な発言』はして欲しくない」と書いているほどに、腹立たしい内容です。
 しかし、私が問題にしたのは、発行人である同協会の三浦理事長と同誌福山編集長の意識と対応です。私は次のような抗議文を内容証明でお2人に2度送りました。


「署名入りの原稿ですから筆者の責任が問われるでしょうが、私はそれよりも社会的な責任を担い、影響力の大きい貴誌が表現の自由を口実にして特定できる対象に対して明らかに誹謗・中傷に終始している記事をなぜ取り上げたのか、貴誌の使命感・倫理観・姿勢を伺いたい。この類の本は皆無に等しく、その上これだけでは完璧な点訳などは難しいと考え『表記法』と『てびき』を加えて、『三種の神器』として勧めている。本書は点字の表記で点訳者が考え込み、戸惑ってしまうので表記法に則った事例集が欲しいという声に応えて、1981年12月15日初版を発行して以来30年間、改訂と版を重ねながら今日に至っている。本書を拠り所として活用しておられる人たちに不安と混乱を持ち込み、その上編集者に対する冒涜と名誉を傷つける暴言である。また、センターの営業妨害になることは当然です。今出ているのは2008年4月1日発行の第5版4刷で編者は小林一弘、加藤三保子、河井久美子、黒ア惠津子、田中徹二、当山啓、藤野克己の諸氏です」

 これに対して、福山氏からおおよそ次のような返事が来ました。
「1月号で水谷氏がお詫びと釈明をしているので決着がついたと考えている。外部のライターによる署名記事の内容について基本的な人権の侵害等以外で当該媒体の発行元や編集部が謝罪したなどということを存じません」。
 氏は「前例のないこと」を幾度も強調していますが、前例云々は説得力がありません。当事者は「しないだろうなあ……」と茶化したような言い方で結んでおきながら、同誌1月号では言いたかったのは「語意識にそぐわないマスあけが多く見られるので、読者や点訳者を対象に意識調査を提案したかった」と釈明しています。だからといって「辞典」を悪玉にされたのでは「悪意」と言われて当然です。それに躊躇なく乗っかった大手誌の無節操さです。「水谷・田中両氏の論旨を原文のまま月刊『視覚障害』に転載して関係者の理解を」という私の申し出にも、「ジャーナリズムの自殺行為」と断られました。同誌1月号巻頭コラム「表現の自由を守るために」で福山氏は「表現の自由は絶対不可侵」と書いています。主義主張と今回のを一緒くたに考えるから真っ当な回答ができないのです。三流誌なら見過ごしたかも知れませんが、大手誌が私たちにとって欠くことのできない点字の問題を「裏」も取らずに掲載して、「表現の自由を守る」などとは笑うに笑えない話です。
 いずれにせよ水谷氏の言う「不毛なトラブル」に巻き込まれた関係者には重ねてお詫びするしかありません。(編集長 高橋 実)

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